秘境というのは「一般に知られていないところ。人が足を踏み入れたことがほとんどなく、どのようなところか世間に知られていない土地」のことを言うそうなので、その定義によるともはや日本において秘境は存在しないのかもしれない。
それでも、簡単には行きつけないところ、神秘的な景色のあるところは秘境といって良いのではないだろうか。
源平の戦いに破れた平家がその身を隠したとされる場所は、祖谷にしろ五箇山にしろ人目に触れてはいけない場所、というどこか独特の空気感をその土地が放っている。
九州の秘境といえば宮崎県の椎葉村だが、私はまだ椎葉村には行けていないので、今のところ椎葉村と接する熊本県八代市の五家荘(ごかのしょう)も秘境としている。
久連子(くれこ) |
椎原(しいばる) |
仁田尾 |
葉木 |
樅木(もみぎ) |
平家の落人伝説の残る五家荘。
これから向かう【五家荘 平家の里】は、興味がある人にとっては歴史を学ぶ良い場所ではあるが、実際には平家伝説よりも紅葉で有名なところとなっている。
何年も前から行ってみたかったのだが、紅葉シーズンというのは桜同様に週末に雨、または色付くタイミングが掴みづらいこともあり未だ行けずにいた。
それに加え、ここへ行ったことのある人から「とても険しいところ」という話を聞いていたので、想像に想像が膨らみ辺境の地というイメージが出来上がっていた。
秋のある日「明日、五家荘に行こう」と思い立った。当日ではなく前日に思い立つのは私にしては計画的行動ともいえる。
晴天の中、景色を堪能しながら車を走らせていると、整備された道路に民家、どこが険しい道なんだろう、と聞いていた言葉に疑問を持つ。
こんな事ならもっと早く来ておけば良かった。「ビビらせやがって!」とまでは思いはしなかったが、辺境の地というほどではないではないか、と感じた。
しかし、そんな驕った考えも途中から鳴りを潜める。
小さな橋を渡ったところから急に道幅が狭まった。
「五家荘では日中のヘッドライトが常識です」の様な文言の看板が現れライトを着ける。
離合困難な狭い道、そしてカーブを、対向車に最深の注意を払いながら競歩並みのスピードで走る。
離合可能場所が少ないので、少しでも離合出来そうな場所があれば確実に記憶しておかなければならない。
何故なら、対向車と鉢合わせた時に自分がバックをする可能性もあるからだ。鉢合わせたタイミング次第では相手がバックしてくれるのを待つしかない。
ここの道が他の道と違うのは、そのバック可能と判断しなければならない距離が桁違いということ。数メートル下がれば良いということはなく、数十メートル単位でバックしないといけない場合も。
自分と相手どちらが離合可能場所まで近いかなんて、そんな比較はしようがない。自分の立ち位置と相手の車幅を考慮し、自分が下がった方が良いだろうと判断したならば、あとはさがるのみ。
車一台がギリギリのカーブを、バックで走るというのは恐ろしいものだ。後ろから車が来ないとも限らない。
道幅が狭まってから距離にしてそんなにないのだが、このような状況のなか走るので実際には長いこと走ったような錯覚に陥る。
一日の前半、あちこち寄り道をしながらのんびりしていた事もあり、着いた時には既に夕方になっていた。
この周辺の道もそうだし、美里方面の二本杉峠も実に神経を使う道だった。
道幅の狭さで特に恐怖を覚えたのは高知県の四万十川沿いだが、長時間に渡り集中力を要する五家荘までの道のりの方が恐怖度が勝った。
②へ続く